テクスチャーは食品分野の専門家なら誰でも知っている用語であるが、一般にはほとんど知られていない。一応説明しておくと、触感あるいは食感とほぼ同じ意味であるが、触感や食感の意味が専門用語としては曖昧なので、Szczesniakが専門用語となるよう整理して、食品分野で普及させた用語である。
この分野の先駆者であるSzczesniak が作成したテクスチャープロファイルでは1)、テクスチャーを力学的特性、幾何学的特性、その他の特性の3大別とし、一覧表に32語を挙げている。そして、主要な用語を定義した。それまでにも同種の取り組みもあったが、この論文が食品分野における近代的なテクスチャー研究とその分類の先魁となった。
これを反映して、テクスチャーには国際規格のISO 11036:1994の「官能分析 ―方法― テクスチャープロファイル」があり、また、ISO
5492:2008の「官能分析 ―用語」にもテクスチャーの項目が含まれているが、Szczesniakの提案を踏襲した内容となっている。
このような状況の中で早川は、日本語には食品分野におけるテクスチャー用語が445 語あるとした2)。これまでに提案された最大の一覧表である。テクスチャー用語を3大分類,15中分類,64小分類64に仕分けて、大分類ごとに一覧表を作成している。なお、数が増えた用語の多くは、オノマトペである。
提案されたテクスチャー用語は、いずれも形容詞とか名詞あるいはオノマトペの単語ばかりで、テクスチャーとか食感が下に付いた用語となっていない。味は専ら味が下に付く用語であり、色や香りでは併用されているので、単語ばかりのテクスチャーはやや異質である。テクスチャーが複数の体性感覚を統合したマルチモーダル知覚であることを反映したものであろうが、一方で一般の人には必ずしもテクスチャー用語とは理解されない危うさがある。
参考資料
1)Szczesniak, A. S.: Classification of textural characterization, J. Food Sci., 28, 385-389, 1963.
2)早川文代:日本語テクスチャー用語の体系化と官能評価への利用, 日食科工誌, Vol. 60, No. 7, 311?322, 2013.