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これまでに作成された味の分類表


 味の分類も、本格的に取り組まれたことがない。その背景には、やはり五基本味だけが味という通説がある。この通説に則れば、五基本味を列挙するだけで味の一覧表になる。これ以外の味は存在しないので、分類の必要がない。

 とはいえ、実際には五基本味だけでは不十分と考えている人も多い。味の分類でいちばんよく見掛けるのは、おいしさの要因を列挙した図の一部として示した例である1,2)。いずれも五基本味だけとせず、辛味や渋味あるいは風味も加えている。ただし、ここまでである。

 五基本味から脱却して本格的に味を分類しようと試みた唯一の例は、裴の論文「味に関する形容詞の語集団」であろう3)。裴は韓国における味の表現が12種類あるとして、「類型」と名付けた味を「味覚」「痛覚」「嗅覚」「触覚」の4つのカテゴリーに大別し、「痛覚」の辛味および渋味を「味覚」の四基本味と並列させている。しかしながら、この報告は言語学の立場からの取り組みであり、分類の基準には含められるべき生理学の知見が反映されていない。また、対象が形容詞に限られている。

 各種類語辞典(たとえば類語新辞典)の「味」の項をみると、例示した類語をグルーピングしている。したがって、分類したといえるかもしれない。しかし、グルーピングの基準は示されていないので、きちんと分類したとはいい難い。

 松本は、5原味(1番目)から心情を含めた味(5番目)までの5段階に味を分類することを提案した4)。意欲的な提案であったが、これを発展させなかった。味を分類したとはいい難い段階に留まっている。

 斎藤は基本味よりも「味の定性的分類」の方が適切であると指摘した5)。しかし、分類の具体的な提案はなされていない。

 以上のように、基本味にこだわらずに味を分類しようとする試みも少なからずあったが、本格的に分類した例を挙げることができない。分類するためにはその対象が必要なのに、対象とする味を定めなかった。

参考資料
1)栗原堅三:うま味って何だろう, 岩波新書, p.3, 2012.
2)大越ひろ・ 品川弘子:健康と調理のサイエンス, 学文社, p.7, 2012.
3)裴解水:味に関する形容詞の語集団, 食文化に関する用語集, 食感覚の表現/朝鮮半島, 味の素株式会社食文化・史料室, pp.52-67, 1986(原著:배해수:맛 그림씨의 낱말밭, 한글, 176, 39-51 (1982)).
4)松本仲子:調理と食品の官能評価, 建帛社, p.29, 2012.
5)斎藤幸子:味覚の心理物理学, 味覚・嗅覚(内川恵二総編集), 朝倉書店, pp.72-87, 2008.

(2019年11月作成)(2020年6月訂正)